珈琲
「なんか泣いて」
「一人で海に行って」
「一本吸って帰ってきたんだ」
「キモイね。お前。」
夏がまだ、まだ僕の首を絞めるような9月の下旬。
ただなんとなく海に行ってそのまますぐ帰ってきてしまった僕に彼女はそう言った。
「るっせ」
ただなにかあるたびに僕は海を見たくなってしまう。
もうなんで泣いたのかは覚えていなかった。
片道1時間半。
多分各駅じゃなかったらもう少し早くつくんだろうけど。
僕は長い間外を見つめるためゆっくりと行って帰ってきた。
「ん」
帰り。
ただもうなんも考えなくなった頭で、
ふと思い出した彼女のために買った缶コーヒーを適当に渡した。
表情の変わらないそいつはこういう時にだけ嬉しそうなフリをする。
それがなんか嫌いじゃなかった。
ありがとうも言わないそいつの横で僕はまたタバコを吸っていた。
いつから吸っていたかはわからない。
いつもは人前じゃ吸わないのに。
ああ。なんで僕はタバコなんか吸い始めたんだっけ。
もう覚えてないけど。
ああそうかだから僕は海なんかを。
嗚呼空が赤い。
夜の空がなぜか赤い。
向こうの方で何かが燃えてるといいなと考え出すくだらない頭が意識を遠くに持っていく。
まだ耳の奥ではあの波の音が鳴っている。
なんだろう。
僕は僕を見透かしている気がする。
わざとこうして憂鬱に浸って。
多分ここが心地がいいんだ。
台風が来るらしい。
夏はこれで死ぬだろうか。
口から出そうになる語彙
理性的ではなくなってしまう。
僕はこんなに僕にこだわり続けているのに。
記憶が脳裏に残っているというのに。
あの景色は優しくも残酷に、
形を変えている風と波は、
僕に身体を渡せと言っているようにも感じた。
それでも僕たちはガードレールの内側で、
保守しようとする自分すらも、
守るために傷ついてしまう。
形を手放す不安定に身を任せる狂気。
なぜ体が破損すると死ぬように生まれてきてしまったのだろう。
五本の指を見て、安心できるのはなぜだろうか。
多分この指すらも生まれ変わり続けているとゆうのに。
目を閉じると聞こえてくる波の声に僕は誘われる。
缶コーヒーは美味しくないし、それを飲んでる自分になにを求めているのだろう。
僕は子供じゃないと言いたいのだろうか。
わらけてくる。
背伸びを止めることが大人なのかもしれないね。

